大判例

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東京高等裁判所 昭和37年(行ナ)221号 判決

(争いのない事実)

一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点がいずれも原告主張のとおりであることは、本件当事者間に争いがない。

(審決を取り消すべき事由の有無)

二 原告は、本件審決には、(一)引用例には本願方法におけるような絞水処理の工程がないにかかわらず、これがあるとした点において、又は(予備的に)、(二)本願発明における急速冷凍の温度は限定的条件であり、特殊の意義を有することを認めなかつた点において、いずれも事実誤認の違法がある旨主張するが、本件におけるすべての証拠によるも、右原告の主張事実は、これを肯認することはできない。以下、これを分説する。

(一) 絞水処理の工程について。

原告は、本願方法における絞水処理は、一旦取り出された餅状物をさらに絞水処理して含水量六五%程度とするものであり、このような工程は引用例の方法にはないものである旨主張するが、その成立に争いのない甲第一号証(本願明細書)によれば本願における絞水処理については、明細書中「特許請求の範囲」の項に、単に「、、、、絞水し、、、、」と記載されているに止まり、原告主張のような内容のものが本願発明の構成要件とされていないことは、当事者間に争いのない本願発明の要旨に照らし明らかなところであるのみならず、成立に争いのない甲第三号証の一から三によれば、本願出願前公知の方法においても、粘着力の強い塊(餅状物)となつたグルテンを布上で圧して水を除くのであり、このような麩素の含水量は、通常七〇%前後(成立に争いのない乙第二号証の二によれば六〇~七五%)であることは、原告の認めて争わないところであるから、餅状の含水麩素に絞水処理工程を施して、六五%程度の含水量のものとすることをもつて、特殊の技術的意味をもつこととすることはできない。けだし、従来の方法においても、その含水量は七〇%前後ないしは六〇~七五%を普通とするからである。また、原告は、本願による絞水処理を施したものが、それをしないものに比して、甲第四号証の一から七(食糧研究所の分析成績書)に明らかなように、高い粘弾性がある旨主張するが、右甲号証の基礎である分析における供試品の調製条件が、被告の指摘するように、明らかでないのみならず、この分析成績は含水量七〇%と同じく六五%の各グルテンの数値を比較したものであり、もとより、これから本願方法により絞水処理を行つたグルテンの性質特性を判定することはできない。(なお、原告は、本訴において、本願方法における絞水処理はグルテンの餅状物をさらに絞水して含水量六五%程度とするものである旨主張することは前摘示のとおりであるが、ひるがえつて前記甲第一号証によれば、「その麩素を膨化させ餅状として取出したるものを適度に絞水し」(第二項十行から十一行)といい、その示すところの実施例においても、得られた麩素の含水量は計算上、六八・四%であることに鑑みれば、本願方法による絞水処理を施した場合においても、得られる麩素の含水量は、なお従来法によるものと大差ないことが窺われる。)

(二) 急速冷凍の温度について。

原告は、本願発明における急速冷凍の温度は、限定的条件であり、特殊の技術的意義を有するものであると主張し、まず、摂氏零下二〇度(附近)は、甲第七号証(茨城大学農学部農芸化学科農産製造学研究室教授青山虎彦作成の試験成績書)により明らかなように、グルテンの変性防止のため必要とする当然の臨界的温度である旨強調する。しかしながら、右甲号証は、その記載から明らかなように、摂氏零下一〇度で緩慢凍結をした場合と、同じく零下二〇度で急速凍結をした場合の試験結果であるから、その示すところが正しいものであるとしても、その数字から、直ちに、急速凍結における摂氏零下一〇度と同じ零下二〇度の温度の差による変性(溶解率)の多少を判断することができないことはいうまでもなく、他に原告の右主張を肯定するに足る資料はない。(ちなみに、本出願より約四年後の発行にかかる甲第六号証の一から三(日本食品工業学会誌昭和三十八年五月号)には「摂氏零下一八度で緩慢凍結したものは、あらかじめ摂氏九〇度で一〇分間加熱した場合、不溶性化率は五〇%に達するが、零下四〇度で急速凍結したものでは不溶性化がほとんど起らない(三%)。この差は、おそらく、凍結速度の遅速がもつとも大きな原因と考えられるが、凍結温度にも開きがあるので、この影響も多少あろう」と報告されている。凍結速度を考慮することなく、温度のみを論ずることの無意味であることは、この報告からも窺い知りうるであろう。)

また、摂氏零下三〇度の点について、原告は、これ以下の低温冷凍は今日の冷凍技術においては工業的に採用困難である旨主張するが、仮にそうだとしても、それは、あくまで、本願発明の実施上における採算の問題であり、冷凍活性麩素の製法としての工業的技術の問題でないことはいうまでもないから、この点に摂氏零下三〇度とすることの臨界的意義を求めようとする原告の右主張は、当を得ないものといわざるをえず、他に右温度が限定的条件であり、特殊の技術的意義を有するものであることを認めるに足る証拠はない。

(むすび)

三 以上説示のとおり、原告主張の事実は、いずれも認めるに足る適確な証拠はないから、本件審決に、その主張のような違法のあることを前提とする原告の本訴請求は、理由がないものというほかはない。

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